浦和家庭裁判所 平成9年(少)5071号
主文
少年を初等少年院に送致する。
理由
(罪となるべき事実)
少年は、A、Bと共謀の上、Cから遊興費を喝取しようと企て、平成9年9月24日午後6時30分ころ、埼玉県春日部市○○町×丁目××番地の○○町×丁目○○広場内において、同人に対し「金を持ってきたか。」「金を持ってこないのならば家出しろ。」などと申し向けた上、少年において右手で上記Cの右肩を殴打する暴行を加えて金員を要求し、この要求に応じなければ更にその身体に危害を加えるかのような気勢を示して同人を脅迫したが、同人の母が助けに来たため、その目的を遂げなかったものである。
(法令の適用)
刑法60条、250条、249条1項
(処遇の理由)
1 一件記録によれば、以下の事実が認められる。
(1) 生育歴・生活歴等
ア 少年は、D(父)、E子(母)の間で昭和58年8月19日に出生し、F(1歳年上の兄)、A(双生児の弟)と一緒に暮らしていた。その後、少年の父母は、昭和59年4月2日に協議離婚し、以後、少年は、東京都北区○△の都営住宅で、F・Aと共に、親権者である父の許で育てられてきた。
イ その後、少年の父は、病院に2回入院をした後、平成3年2月6日(少年は小学校1年生)に脳出血により死亡したが、このとき、少年ら兄弟3人は、父の入院時に都内の養護施設に預けられた際に辛い思いをしたことから施設入所を嫌がり、上記都営住宅で暮らしたいと希望したので、後見人となったG子(父方祖母)、H子(父方伯母)、I子(父方伯母)が協議の上、同人らが1週間交代で上記都営住宅で泊まり込んで少年ら3名の面倒をみるようになった。しかし、伯母たちが自分たちの家との二重生活に疲れ果ててしまったことから、平成4年3月末ころ、少年は、Aと共に、埼玉県春日部市のH子・J夫妻の許に引き取られて養育されることになり(なお、Fは引き続き上記都営住宅でG子と一緒で暮らすことになった。)、同年4月(少年は小学校3年生)に春日部市立○□小学校に転入学した。
ウ 平成5年4月(少年は小学校4年生)、Aは、そのころ○□小学校に転校してきたBと交遊するようになったが、同人が家庭的に貧しくこれまで窃盗等の問題行動を起こしている少年であったことから、Aもまた、そのころからBと一緒になって、シンナー遊び・喫煙・万引き・喧嘩などを繰り返すようになった。そして、平成7年4月(少年は小学校6年生)には、Aは、B及びその姉のK子と一緒に学童保育所に金員窃取の目的で侵入したことにより、越谷児童相談所に通告されている。
エ 他方、少年は、野球部活動が支えになっていたこともあり、中学1年まではAに比べると問題行動は目立たなかったが、平成9年9月ころ(少年は中学校2年生)になると、学校にはほとんど登校せず、B・Aと3人で夜遊びを繰り返して、暴走族のメンバーと接触したり暴力行為・恐喝まがいの行為を反復するようになった。そのため、少年は、伯母H子らから、夜遊びをせず学校に行くようたびたび注意を受けていたが、これに耳を傾けずその指導に従おうとしなかったばかりか、同人に対し殴る蹴るなどの暴力を加えるようになっていった。
(2) 本件恐喝の経緯
ア 少年は、上記のとおり、9月ころから夜遊びを繰り返すようになっていたが、伯母H子からは毎月1000円の小遣いしかもらっていなかったことから、遊ぶための金をもっと欲しいと思っていた。そこで、少年は、一緒に学校を怠学して夜遊びを繰り返していたB・Aと相談していたところ、同級生のCから金を取ろう、ということで話がまとまった。その理由は、少年は、これまでにもB・Aと一緒にCからカツアゲをしたことがあり、Cからは金を取りやすいと考えていたからであった。
イ 9月19日の午後1時半ころ、Aは、中学校の階段踊り場部分にCを呼び出し、同人に対し「明日学校に金を2万円持って来いよ。」「金を持って来ないとぶっ殺すかんな。」などと申し向けて金を要求した。Aはその後も翌20日や22日、授業の休み時間ごとにCの教室を訪れ「金持って来たか。」「早く持って来いよ。」などと要求し続けたが、Cがなかなか金を持って来なかったことから、少年たち3人は、そのようなCを腹立たしく思い、同人を家の近くなどで待ち伏せしたりしていた。
ウ 24日、少年ら3人は、C方近くで同人を待ち伏せていたところ、午後4時ころ、帰宅途中の同人に出会った。そこで、AがCに対し「金持って来たか。」と申し向けたところ、同人が「持って来てない。」と答え、金を持って来る素振りを見せなかったことから、少年ら3人は、「Cを連れ回して一日中遊び回っちゃおうぜ。」と話し合い、Cを取り囲むようにして近くの公園に連れて行った。午後5時ころ公園に着くと、少年らは、Cに対し「金を持って来いよ。」「金を持って来ないのならば家を出ろ。」と脅したが、Cがなおも金を持ってくる素振りを見せなかったため、Aが右手でCの右肩を殴りつけ、「金を早く持って来いよ。持って来ないのだったら家出しろよ。」と何回も脅した。そのうち、午後7時すぎころ、Cの母親が連れ戻しに来たため、少年らはCから金を取ることを諦めた。
(3) Aの事件係属と少年の対応
Aは、平成9年12月11日に○○警察署から当庁にぐ犯送致を受け(当庁平成9年(少)第××××号ぐ犯保護事件)、観護措置を経た後、本件と非行事実を同じくする恐喝未遂保護事件(当庁同年(少)第××××号事件)を審理併合の上、平成10年1月5日に当庁において教護院送致の決定を受けた。しかるに、少年は、その後も、一時中学校に通学するものの間もなく怠学するようになり、また、伯母H子に対し殴る蹴るの暴力を振るったり同人のバッグから現金を盗んだりしていた。
(4) 保護環境
伯父Jは、少年やAがたびたび問題行動を起こしてきたこと、また、少年らが伯父Jの財布から何度も金を持ち出したことがあったことから、平成8年ないし9年ころから、少年らに関わり合いを持つことを拒否するようになり、伯母H子に対して少年たちをこれ以上同居させるならば離婚か別居をするように迫るようになっているほど、伯母夫婦の仲は少年らの監護の失敗をめぐって険悪な状態となっている。そして、伯母H子は、たびたび問題行動を起こし、自分たちの注意を聞き入れようとしない少年らの監護に疲れており、限界を感じ始めている。また、後見人である祖母I子は、老齢のため、兄Fの世話で手一杯の状態である。なお、少年らの母・E子は、既に再婚して3人の子と暮らしている。
以上の事実が認められる。
2 少年の非行性・要保護性
上記1の事実、一件記録及び審判の全趣旨によれば、少年は、平成9年9月ころからは、学校にほとんど登校せず、伯母H子らの監護に服さずに、夜遊びを繰り返し不良交遊を行う中で本件恐喝等の非行を敢行していたものであって、上記で見た非行の態様・動機等をも総合考慮すると、少年の非行性・要保護性はもはや看過できない程度に達しているものと判断するのが相当である。
3 少年の保護環境
上記1の事実によれば、少年はこれまで伯母H子らの正当な監護に服さなかったものであること、H子夫婦の仲は少年らの監護をめぐって険悪な状態となっており、H子も少年らの監護に限界を感じ始めていること、後見人である祖母I子は、老齢のため、兄Fの世話で手一杯の状態であることが認められ、これらによれば、もはや現時点においては、少年の保護環境は充分ではないものといわざるを得ない。
4 結論
以上の少年の非行性・要保護性と保護環境にかんがみれば、少年の更生を図るためには、社会内処遇では限界があり、矯正施設に収容して強力な働き掛けを行う必要が存するというべきであって、少年に対して適切な指導を行い、社会生活に必要な正常な規範意識を養うため、少年を初等少年院に送致するのが相当である。
また、少年の自制力の乏しさ、規範意識の著しい欠如を矯正し社会に適応する能力を身につけさせるため少年を十分に教育指導するためには、相当の長期の期間がかかると認められるので、処遇勧告は付さないこととする。
少年院においては、少年に対し、規範意識の形成、恐喝その他犯罪を犯した場合の社会的責任、自分の行動が他者に与える影響等を充分に教育するよう希望する。
少年に対しては、少年院における処遇を通じて、自己のこれまでの行動様式を充分に反省し、基本的な生活習慣と自己統制力を身につけ、併せて、自己の行動の原因をこれまでの不遇な生活に転嫁することのみにとらわれず、恐喝の被害者や伯母夫婦などを始めとして、他者に対する配慮・思いやりを常に心の片隅にとどめるよう努力し、自己の行動に責任を持てるような一人の人間として成長されるよう希望する。
よって、少年法24条1項3号、少年審判規則37条1項を適用して、主文のとおり決定する。